ふじ 藤 camellia ―花房に艶めく色香
◎樹種:フジ(マメ科)落葉高木
◎学名:Wisteria floribunda
◎シンボル:男女の絆、長寿
深紫、浅紫、藤紫、紅藤......ひと房に幾色も
なぜか、幼い頃から藤に惹かれていた。子どもなのに「藤の花が好き」なんて、
今思うとおかしいような気もするが、それは無意識のうちに、花の中にいつか
到達したい女性像とでもいうべき美を感じていたからかもしれない。お正月の
ために買ってもらった羽子板には藤娘が描かれていた。刺繍で施された藤の花
房一つ一つを触っては、飽きもせず長い時間見とれていたものだ。幼い頃はもちろん知らなかったけれど、『源氏物語』や『枕草子』に描かれるように、美しい女性のシンボル、藤の花。そのことを日本女性としての遺伝子がひそかに覚えていたのかもしれない、と不思議に思ったりする。
恋しい人を思い浮かべる藤の歌
『万葉集』には藤を題材とした歌が28首ある。その多くが恋人への思いを綴
った歌である。
「恋しけば 形見にせむと わが屋戸に 植えし藤波 咲きにけり」(巻八、1471
山部赤人)
訳すと、「あなたが恋しいから形見にしようと、わが家の庭に植えた藤の花が
今咲いていますよ」。恋人の代わりに植えた藤の花が咲いたことを伝える歌で
ある。古来、男心をかき立てる藤。古来、日本では、男は「松」に見立てられ、女は「藤」に喩えられる。ふたつ合わさって"男女和合"。どこまでも、恋しく、愛しく、色香漂う、藤の文様。
何よりも心惹かれるのは藤ならではの色彩。藤の紫色は平安時代には最も高貴な色とされるが、ひと言で藤色、紫色といっても多種
多様にある。こっくりと濃い深紫(こきむらさき)、ほんのり淡い浅紫(あさ
むらさき)、青みがかった藤紫、赤みがかった紅藤......。一方、藤の白色は
目の覚めるようで、他のどんな花の白よりもさらに白く、潔さを感じていた。
書いた日:2015年4月21日 初出:niftyメルマガ「おとなの学び場 杉原梨江子の聖樹巡礼」第21回